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【農業界のスゴい人】「農」の周りの『人』と『ビジョン』を支える企業人:小野 史さん

農業カルチャーに貢献する、さまざまな分野のスペシャリストに会いに行くこの企画。4回目となる今回は、日本の農業の可能性を広げるべく挑戦を続ける企業、株式会社マイファームのメンバー・小野史さんをご紹介。「農」に関係する人材を育てる農業スクールの黒衣として、また、多彩な農業ビジネスを展開するチームの運営スタッフとして活躍する小野さんのバックボーンとやりがいをうかがった。

Text・Photo:TSUCHILL編集部/MY FARM(写真提供)


「人と農をつなぐ」ことを目指し、農業に関連するさまざまな事業を手掛ける企業がある。

株式会社マイファームは、週末農業スクールであるアグリイノベーション大学校(以下AIC)の運営をはじめ、農業研修や経営塾、就農促進事業を展開することで、農業にかかわる人材の育成や、新たな農業ビジネスの開発にも取り組んでいる。

そんな新世代の農業ベンチャー企業に所属する小野さんは、多岐にわたる事務的作業をこなしながらも、AICの運営スタッフとして農業のよりよい未来のために奮闘を続けている。

AICは、社会人の方々が働きながら農業を学べる学校で、弊社の根幹を担う事業です。

私自身は、講義の企画、調整、運営や受講生のサポート、講師の先生の選定やアサインなど、事務局のさまざまな業務に携わっています。

担当しているゼミナールのカリキュラムに現地視察などもありますので、行き先を見つけたり、合宿を仕切ったりすることなども業務のうちですね」


デスクワークに追われることもあるが、AICの実習農場や農家の畑を訪れることも少なくない。そこでは時に受講生たちとともに土に触れ、時に生産者の生の声を拾い、リアルな「農」の世界を体感する。

「私を含め、弊社の社員はみんな現場が好きなんです。机上でビジネスプランを練るよりも、外に出て『いい苗できたぜ!』なんてやっている方が楽しいみたい」と笑うが、現場を大切にする社員たちの感性こそが、マイファームという会社が躍進する原動力になっているのかもしれない。

もともとは東京の生まれで、小学校に入る前に宮城県に移り住んだという小野さんは、田畑に囲まれ、農業を身近に感じられるエリアで育った。

ただ、移住者であることに加えて、両親の仕事も農業とは無関係。「そんな事情もあってか、どこか『農』の世界を客観的に見る視点を持っていた」と幼少期を振り返る。

大学への進学を機に、心に焼き付いた故郷の原風景とともに上京した小野さんは、そこである「ギャップ」に気付く。

「上京をきっかけに、私が毎日見ていた宮城県の農村の風景や、周囲に農家がいるという日常が、『当たり前じゃないんだ』ということを実感して、都市と農村の違いについて考えるようになったんです。

『私が育った農村って、なんだったんだろう』という感じです。それが、自分が学ぶ領域を『農学』と決めた時の、なんらかのきっかけになっていると思います」

専門は農業経済学。地方の農家を訪ねて調査し、さまざまな切り口で「農」の現状を把握する。自らの足を使い、考えることで得た知見は、現在の仕事にも大いに活かされているという。

「各地の農家の方々の状況を知ったり、過去の歴史を体系的に見たりできたのは収穫でした。

たとえば、農村地域をサポートする事業を進めていくなかで、その地域の傾向や農家の考え方をきちんと把握することも容易になります。

日本中の農家のみなさんと接していくうえで、大学で学んだことはとても役に立っていると思います」

大学院まで進み、農業関連の研究機関を経て、農業経営者を育成する学校に勤務。そして、2020年に株式会社マイファームに転職。キャリアを積み重ね、それまでの経験を活かす場所として、マイファームこそが最適な場所だと感じたからだ。

「マイファームに来たのは、教育事業を展開していること、そして、農業に関連する多彩で面白いビジネスをやっているところに魅力を感じたからですね。

前職では農業経営についての教育カリキュラムに携わっていたのですが、より幅広い層、たとえばプロの農家を志しているわけではないけれど、農業に興味がある方々のお役に立てる点にも惹かれました」

プロの農家であれ、趣味の延長の農業であれ、現代の「農」へのアプローチは多様化しつつある。そういったなか、「農」の世界を志す人や興味を持った人にとって、起こりうるリスクや最適な道筋を教えてくれる教育機関の存在は重要な意味を持つ。

だからこそ小野さんは「農業に関わる人のチャレンジ」をサポートしていくことが最大のやりがいであり、使命でもあると語る。

「農業界の入り口にはいくつものドアがあって、必ずしもすべてがいいドアだとは限らないんです。にもかかわらず、一度開けてしまうと後戻りできないケースも多いんです。

『補助金をもらえると言われて移住したけどうまくいかなかった』とか、『必ず儲かると聞いて多額の先行投資をして失敗した』とか。

そうならないために、私たちは週末農業スクールを通じてできるだけよい入り口を提案したいし、私たちがドアの内側を見せてあげたうえで、最適なアプローチを選んでもらうことをしていきたいと思っています」

農業を始めたい、農業に関わりたいという意欲を持った人たちが、小野さんをはじめとしたAICのスタッフが作り上げたカリキュラムを受講し、知識を得て納得する。

そして、安心して農業界につながるドアを開けて飛び込んでいく。小野さんはそのプロセスに伴走できることこそが、この仕事の最大のやりがいだという。

「最初のうち、迷いがあったり営農プランに悩んでいた方でも、AICで学んでいく過程で何かが腑に落ちた瞬間、目の色が変わるんです。

受講生のみなさんが進むべき方向を定め、動き出す瞬間に立ち会えた時に『この仕事をしていてよかったな』と感じますね。

人生経験を重ねた方々が、仕事を続けながらさらなる変化を目指して新しいことに乗り出す姿を見ると尊敬の念を抱きますし、私自身の刺激にもなります」

小野さんたちが学びの場を提供し続けることによって、「農」に興味を持ち、「農」にかかわろうとするという人はこの先も増えていきそうだ。

AICは卒業生に対するサポートが手厚いことに定評があり、何らかの形で農業にかかわり続けている卒業生とのネットワークを大切にしてきた。

そんな環境のもと、たくさんの受講生に伴走してきた小野さんは「卒業生」たちとのつながりをより活かす形で、「AICにできること」をグレードアップしていきたいと考えている。

「これからは、AICを修了して農業の道に進んだ方々を訪ねていきたいと思っています。全国各地で面白いことをやっている人がたくさんいますから。卒業生の方の現在を見せてもらって、それを実例として今後のカリキュラムにフィードバックさせたいですね。また、その人たちが今さらに何を学びたいのかといったニーズを知ることにもつながると思います」

農業に携わる人、かかわりたいと思う人を、つなぎ、育てることが、株式会社マイファームのビジョンであり、AICはその入り口として機能している。「農」の世界に足を踏み入れる人を少しでも増やすことが、小野さんをはじめとするスタッフの重要な使命。

「農業にかかわる人が増えることで、農業の可能性はさらに広がるはず」。そんな思いを胸に、小野さんは日々、オフィスと農園を行き来している。


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