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「市場に流通しない幻の野菜がある?」「謙虚な農家さんの◯◯は✕✕✕」。料理家に聞いた“農業あるある”大公開!

趣味としての農業に興味津々♪ そんなあなたに耳打ちしたい「ココだけの話」をお届けするこのコーナー。今回は、農家のホンネを知る料理家・桑折敦子さんに突撃取材。料理家が求める美味しい野菜はどこにあるのか、農家とはどんな付き合い方をしているのか。とっておきの裏話をご賞味ください!

Illustration:あおむろひろゆき / Text:TSUCHILL編集部


協力してくれたのは……
料理家・桑折敦子さん

福島県南相馬市出身。短期大学の食物栄養科を卒業後、食品工場の栄養士や飲食店の立ち上げ業務などを経験。2004年にスープ専門店「スープストックトーキョー」を展開するスマイルズに入社し、商品開発を担当。2017年にフリーランスとして独立後も、スープストックトーキョーの商品開発を継続しながら、食品メーカーや飲食店のメニュー開発、店舗開発などを行っている。また、国内外を旅し、さまざまな生産者や料理家との交流を通して、新たな美味しさとの出会いを探求している。




【ここだけの話1】料理家が旬の食材を重視するのは「食と農の健全な関係」を意識しているから

料理の本質を大事にする料理家は、メニューを考える際に旬の食材をいかに取り込むかを考えます。「旬の素材がおいしいから」というのが最大の理由のようですが、同時に「食・農・環境」の循環に対しても目配りをしているからだそう。
 
冬に夏野菜を求める消費者のニーズに応えようとすると、農家はコストと環境負荷をかけて野菜を育てなくてはなりません。料理家の中には、そういった不健全な状況に疑問を抱き、旬の食材にこだわる人も少なくないそうです。
 
海外の市場に行くと「その季節に採れる野菜しか置いていない」というところもざらにあります。桑折さんいわく「1年を通して旬の食材を楽しみ、足りないものは発酵し、保存したものなどで補えば十分……という考え方が世界のスタンダード」なんだとか。
 
食のあるべき姿を想像したり、環境問題に意識を傾けたりすれば、海外のそういった価値観も腑に落ちるはず。桑折さん自身も「旬のものを料理することが当たり前になると、食と農の関係はもっと健全なものになっていくだろう」という思いを、ワークショップを通じて伝えているそうです。

みんなが常に旬を感じられるようになるためには、野菜側からのアピールも必要ですよね。

【ここだけの話2】謙虚な農家が作る野菜は美味しい可能性が高い

美味しい食材を探し求める料理家は、それを見つけるためのさまざまな手段や基準を持っています。そのひとつが、「生産者のパーソナリティ」に目を向けること。
 
作物を育てる機会は、基本的に年に1回。その1回にかける思いが強い生産者は、どうしたらもっと上手に、もっと美味しい野菜が育つかを考えています。そして、そういった生産者ほど「自分なんてまだ、この仕事をはじめて15年。この野菜も15回しか作ったことがないんだから…」といった具合に謙遜する人が多いようです。
 
高い志を持ち、向上心があるからこそ、自画自賛することはないのかもしれません。視点を変えれば、謙虚な生産者ほど、美味しい野菜を作っている可能性が高いとも考えられます。
 
料理家は、そういった農家の方々の心の機微を見逃しません。日本各地の畑に足を運び、生産者との対話を大切にしてきた桑折さんも「偉そうにしているベテランの農家さんよりも、奥ゆかしい農家さんが育てる野菜のほうが、味も品質も信頼できると思っている」と語ります。

奥ゆかしすぎて野菜を売ること自体を遠慮してしまう農家さんが出ないように、料理家のみなさんは日夜全力でマーケットを盛り上げているのです(嘘)

【ここだけの話3】食材の一番美味しい食べ方を知っているのは生産者

料理家が美味しい料理を作るためには、仕入れた食材にまつわる生産者からの情報が不可欠。生産者は、食材の生育状況を見守り続けていますから、採れた野菜を最高に美味しく調理するための要点を握っていると言っても過言ではありません。
 
たとえば「今年は雨が多かった」という玉ねぎ農家の話を聞けば、料理家は「今年の玉ねぎは水分量が多いから加水量を減らそう」や「炒める時間を長くしよう」といった具合に、調理工程を変えたりもします。
 
桑折さんをはじめ、多くの料理家が生産者とのコミュニケーションを大切にしているのは、そういった理由もあるようです。

農家の方々が持っている経験や感覚に基づく情報を引き出して、言語化し、料理に活かすのも料理家の大事なスキルなのかもしれませんね。

【ここだけの話4】市場に出荷されない、絶品の野菜が存在する?

農家と密に接している料理家は、農家が “売らない野菜” があることを知っています。商品として出荷する野菜のほかに、自家消費用の野菜を育てていることがあるんだとか。
 
出荷用の野菜は、そのサイズや栽培方法を含め、買い手からのリクエストに沿ったものになります。一方で自家消費用の野菜は、誰のためでもなく、自分たちで食べるために作ったもの。
 
桑折さんいわく「農家さんが売らずに自分たちだけで食べている野菜は、驚くほど美味しいことがある」んだとか。
 
生産者がこっそり育てている “流通に乗らない野菜” と出会う機会があったら、ぜひ少し分けてもらって、味わってみることをおすすめします。

その美味しそうな野菜、どこで買えますか?え…売り物じゃない?じゃあ、ちょっとだけ味見させてください。ダメ?いやそこをなんとか。お願い。ちょっとだけ。ひと口だけ。

【ここだけの話5】料理家は地域ごとの「旬」や「収穫時期」の移り変わりに便乗する

野菜は地域ごとに収穫の時期が異なり、料理家はそれを想定して食材を仕入れます。桑折さんが商品開発を担う「スープストックトーキョー」で通年販売しているスープの材料となる野菜の仕入先も、一年を通して九州からだんだんと北上して行きます。

旬な産地から取り寄せたほうが、量も値段も安定するからだそうです。
 ただし、産地が変われば、野菜の味も微妙に変わります。ということは、スープの味も変わってしまうのでは……と考える人もいるでしょう。
 
それについて桑折さんは「たしかに味は変わります。でも、私が作っているスープって、記念日に行くレストランで出るような非日常の料理ではなくて、あくまで日常的なもの。だから、ベースの味から逸脱しない範囲で多少の違いが生まれることは、むしろいいことだと思っているんです」と語ります。
 
同じ野菜でも地域が違えば味が変わるのは当たり前。それを知ったうえで、地域ごとの味を楽しんでもらうことを望んでいる農家も多いようです。

全然関係ないですが、人が23人集まると、同じ誕生日の人がいる確率が50%を超えるらしいですよ。

料理家目線になると、「食」と「農業」の関係性が見えてくる!

食を通して社会と繋がり、さまざまな生産者との交流を続けてきた料理家・桑折敦子さんならではの「ココだけの話」いかがでしたか?
 
料理家の視点に立つと、「本当の美味しさとは何か」ということから「日本の農業の課題は何なのか」といった社会的な問題までもが見えてきます。食を通して農業を考えることは、とても大切なことではないでしょうか。
 
「食」と「農」の深い関わりについては、今後もTSUCHILLで取り上げていきたいと思っています。お楽しみに!

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